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仮面(11)


仮面(11)




戸惑いながら踏み入れたスタジオでは、まさに敦賀さんとレイナさんの撮影の真っ最中だった。

ふたり寄り添い、お互いがカメラに向かって微笑んでいた。

『絵になる』

そんな言葉がぴったりと当てはまる雰囲気だった。

「いいね、ふたりとも。じゃあ今度は見つめ合って」

カメラマンの注文にふたりが向き合った。

すると、レイナさんはするっと敦賀さんの首に腕を回し、身体を近づけた。

その表情は、媚びるでもなく、甘えるでもなく、対等に、でも愛しさが溢れるような笑みをしていた。

そんなレイナさんの腰に腕を回し、敦賀さんも甘く微笑んでレイナさんを見つめる。

「レイナ、いいよその表情!」

大人の雰囲気の敦賀さんと対等に張り合うレイナさん。

モデルとしてのプライドを見せつけられた気がした。

かなわない・・・・

そう思った。

私には、敦賀さんと対等に張り合える様な雰囲気なんて出せない。

あんな大人の雰囲気なんて・・・・無理だ。

その場を逃げ出したい気持ちになっていた。

だけどそんな事をすれば、敦賀さんの顔に泥を塗ってしまう。

ううん・・・・

レイナさんを納得させられなければ、結局同じ事だ。

どうしよう・・・・どうすればいい?

完全に混乱した私は、自分がどう演じるべきか、考える余裕を失っていた。

「オッケー!レイナ、今日はノッてたねぇ。じゃあ次、京子ちゃんだっけ?やろうか」

「え?あっ!ハイ!」

カメラマンが私を振り返り声をかけた。

どうしよう・・・・どうしよう!

全然どう演じていいか分からない。

自分がどんな表情をすればいいかなんて分からない。

このままじゃ完全に敦賀さんに迷惑かけてしまう。

だけど撮影は待ってくれない。

恐る恐るセットに近づいていく。

緊張で胸がドクンドクンと音を立てているのが分かる。

セットの中では敦賀さんが待っていてくれるのに、今の私にはそれすらも視界に入っていなかった。

ただひたすらセットの中の空間が怖かった。

あと一歩でセットの中というところまで来ると、敦賀さんが私に向かって手を差し伸べてくれた。

漸く私の視界の中に敦賀さんが映し出された。

「あ・・・敦賀さん・・・」

「おいで。俺と君との舞台だ」

差し伸べられた手を無意識にとっていた。

手が重なった瞬間、敦賀さんは私の手をぐっと引き寄せた。

「あっ!」

予想外の事で全く抵抗出来なかった私は、そのまま敦賀さんの胸に飛び込む形となってしまった。

これは・・・いわゆる「抱き締められてる」状態?!

混乱した私はじたばたと敦賀さんの腕の中で暴れた。

「えぇっ?!敦賀さん、急になんですか?!まだ撮影始まってませんよ?」

「今、どんな気持ち?」

「はい?」

私の慌てぶりなど素知らぬ振りして、敦賀さんが私に尋ねてきた。

まさかそんな事を聞かれるとは思ってなかった私は、まじまじと敦賀さんを見上げた。

すると敦賀さんは、背中に回していた腕を開放して私の頬を両手で包み込み顔を覗き込んだ。

「俺とこうして見詰め合って、今、どんな気持ち?」

真正面からそう聞かれると、正直に答えるしかなかった。

「すっ・・・すっごく恥ずかしいのとドキドキするのと・・・どうしていいかワカリマセン」

「そう。それでいいんだよ」

にっこり微笑んだ敦賀さんは私の頬を開放した。

「今の気持ち、そのままで撮影すればいいんだよ。言っただろ?『君らしく演じればいい』って」

「あっ・・・」

敦賀さんの行動の意図がやっと分かった。

私がどう演じればいいか分からないのなんて、敦賀さんにはバレバレだったんだ。

だからそれを教えるために・・・。

「君の気持ちをどう表現するかは君次第だ。人と比べる必要なんてないんだよ」

心に光が差し込んだ気がした。

私らしく演じる敦賀さんの恋人。

なんだか演れそうな気がしてきた。

「撮影、いけるね?」

私の表情を見て、敦賀さんがそう声をかけた。

「ハイ!お願いします!」

さっきまでの怖さはなく、私は意を決してカメラに向かった。

「じゃあ、まずはお互い並んだところから撮っていこうか」

カメラマンの注文に私は意識を集中させていった。

今は敦賀さんの恋人・・・。

大好きな人が傍にいて、それだけで嬉しい。

だけど、ちょっと恥ずかしい・・・かな?

自分の中にそんな感情を見つけて、私ははにかむ様に笑った。

すると、敦賀さんが私の手をとってすっと指を絡める様に手を握った。

「うん、いいね。レイナの時とは違う初々しさがあるね!」

カメラマンの言葉に少しの疑問が浮かんだ。

敦賀さんの衣装はかなり「大人の男」の雰囲気だった。

なのに、こんな雰囲気と合っているのだろうか・・・。

そろっと視線を敦賀さんに移した。

そこには、さっきまでの妖艶さを消して照れた様に微笑みながらも優しく私を見てくれる敦賀さんがいた。

大人の男がはにかむ、思わず母性本能をくすぐられる、そんな表情だった。

(敦賀さん・・・・私に合わせてくれてるんだ・・・・すごい、さすがだわ!)

そう思った瞬間だった。

「あぁ・・・京子ちゃん。蓮を尊敬の目で見ちゃダメだよ・・・。恋人らしさが消えちゃうから」

「あっ!すいません!!」

思わず素に戻ってしまっていた。

もう一度、自分の奥にあるくすぐったい感情を見つめなおした。

そうして何カットか撮影した後、再びカメラマンから注文が飛んだ。

「オッケー、じゃあふたり向き合って」

そう言われて、身体を横に向けた。

だけど、やっぱりまだ恥ずかしくて敦賀さんを正面から見つめることが出来ない。

もじもじとしている私の肩に敦賀さんが手を置いた。

俺を見て

そう言われてる様な気がした。

伺うようにそろりと上目遣いに見上げると、首を傾げて私に微笑みかける敦賀さんがいた。

その笑顔、すごく好き・・・

反射的にそう思った私も、思い切って敦賀さんを見上げて微笑んだ。

「うん!いいね、京子ちゃん、その笑顔!『好き』って書いてあるみたいだよ!」

ご機嫌なカメラマンの声がした。

その声に反応してか、敦賀さんが私の頭をよしよしと撫でてくれた。

嬉しい・・・敦賀さんに触れられるのが・・・嬉しい・・・

素直な感情のまま、頭を撫でていた敦賀さんの右手に触れた。

その手を両手で包んで自分の頬に当て、敦賀さんを見上げた。

あなたが好き

この手の温もりも

全てが好き

そんな思いを込めた時、最後のシャッター音がスタジオに響いた。

「オッケー!うん、いい撮影だった!!」

カメラマンの言葉でふっと自分の中に羞恥心が蘇ってきた。

未だ握ったままだった敦賀さんの手を放り出す勢いで離した。

「うわっ!すいません、敦賀さん!!」

「いつまでも握っててくれてよかったのに」

私の慌てぶりに敦賀さんがくすっと笑った。

恥ずかしくて仕方ない私はあたふたとしながら敦賀さんに言った。

「あっ・・・あの敦賀さん、先に着替えてください。私は後で着替えますので!」

「もう少し最上さんと恋人気分味わいたかったけど、撮影終わっちゃったしね。じゃあお先に」

最後まで私をからかって、敦賀さんは控え室に戻っていった。

もともと私には控え室などないので、スタジオの隅のパイプ椅子に腰掛けてふっと一息ついた。

初めてやったモデルは、凄く楽しかった。

お芝居とは違い、台詞や動きがない分、一瞬の表情で全てを伝えなくてはいけない。

すごく勉強にもなった。

最初は嫌々だったけど、やって良かったなと思っている時だった。

「なかなかいい表情してたわね」

「レイナさん!」

私の隣にレイナさんが腰をかけて話しかけてきた。

「あのレンの雰囲気にああいうアプローチするとは、私には思いつかなかったわ。レンもいい顔してた。あなたなかなかやるわね」

初めてレイナさんが私に笑いかけてくれた。

認めてもらえた。

ほっとしてレイナさんに頭を下げた。

「ありがとうございます!」

「だけど」

頭の上で響いた声に顔を上げると、からかうようなレイナさんの顔があった。

「あなた、途中から『演技』してなかったわよね?あなたの感情、そのままが出ていた気がするんだけど」

「えっ?」

指摘されて初めて気付いた。

そういえば、自分の中に芽生えた感情そのままを私は表現していた。

敦賀さんに触れられて嬉しいって思った。

微笑まれて胸がきゅってなった。

『好き』って思った。

「あ・・・・私・・・・」

呆然とした私を見てレイナさんが呆れた様に言った。

「もしかしてあなた、自覚してなかったの?それであの表情してたの?・・・大物ね」

そして立ち上がったレイナさんは向こうから歩いてくる敦賀さんを見ながら呟いた。

「まぁレンの表情も演技じゃなかったけどね」

「えっ?どういう意味・・・・」

私の言葉を最後まで聞かず、レイナさんはその場を立ち去り、入れ替わるように敦賀さんが私に声をかけた。

「お待たせ、最上さん。君も着替えておいで」

敦賀さんと視線を合わせると、撮影の時に感じたドキドキと嬉しさと恥ずかしさ。

その感情が再び私の中を駆け巡る。

やっぱり・・・・私・・・・敦賀さんが・・・・好きなんだ。

素直な心がそう訴えていた。

事務所の先輩で。

尊敬出来る人で。

頼れる人だと思っていた。

だけど・・・いつの間にか好きになってた。

「最上さん?どうした?レイナに何か言われたの?」

声を掛けても何の反応もしない私を敦賀さんが心配そうに覗き込んだ。

自分の思考の中に突然敦賀さんのアップが入り込んできた私は驚いて立ち上がった。

「なっなんでもアリマセン!ただいま着替えてまいります!!」

その場を逃げ去る様に駆け出し、控え室へと駆け込んでいった。

バタンと勢い良く控え室のドアを閉め、そのままずるずると座り込んでしまった。

どうしよう・・・

どうしよう・・・

よりによって敦賀さんを好きになってしまうなんて・・・

どんなに頑張ったって絶対手の届かない人なのに・・・

弾んでいた息を整え、大きなため息を漏らしてのろのろと立ち上がった。

(私ってよっぽど恋愛の神様に嫌われてるんだわ・・・)

見えもしない神様に八つ当たりしたい気分になりながら衣装を脱ぎ、私は代マネの仕事を終えた。









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