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仮面(8)


「危ないっ!」

沖から聞こえてきた緊迫した声に視線を向けた。
そこには、今まさに波に呑まれようとするふたつの人影。

「もしかして・・・・最上さんと社さんっ?!」

よく見知った人影に、海へと駆け出そうとした俺の腕を誰かが掴んだ。

「危ないですよ、敦賀さん」

「でも、今最上さんと社さんが波に攫われたんだ!」

「今行ったら危ないですって」

ぐっと俺の腕を引く手を払いのけようとした。
だけど、そこには次々と違う手が伸びてきて俺の邪魔をしようとする。

「そうですよ!敦賀さんまで波に呑まれちゃいます!」

「だからってこのまま放っておくのか?!離してくれ!!」

「きゃっ!」

力ずくで邪魔な腕を払いのけ、海に駆け出した。

その時

「落ち着け!蓮!!」

「・・・社長・・・」

怒鳴り声に足を止めて振り向けば、社長が俺の腕を掴んでいた。

「今お前が海に飛び込んでどうなる?ちったぁ落ち着けや」

「でもっ!」

「蓮!」

社長の有無を言わせない態度に腕の力を抜いた。

「とにかく救助の要請するから。お前は頭冷やせ。いいな?」

「・・・ハイ・・・」

そう答えるしかなかった。




仮面(8)




夕方になってもふたりは見つからず、潮の流れを考えて、明朝、海岸沿いに重点を置いて捜索することが決まり、その日の捜索は打ち切られた。


俺は食事も摂らず部屋に篭っていた。
同じ浜辺にいながら、なぜ俺は最上さんの存在に気付かなかったんだ。
その前に、なぜ最上さんは俺に声を掛けなかったんだ?
俺が海で待ってる事は分かってたはずなのに・・・。
どうか・・・どうか二人とも無事でいてくれ!
強く拳を握り締め、ただ祈ることしか出来ない自分が歯痒かった。
夜も明けきらぬ早朝。
一睡も出来なかった俺は居ても立ってもいられなくなり、ひとりで捜索に出た。
朝の澄んだ空気の中、俺はまだ誰もいない海岸沿いを歩き続けていた。


(きっと・・・きっとこの近くにいるはずなんだ!)

焦るような祈るような思いで辺りを見渡した時、岩陰に人影を見つけた。

(もしかして!)

駆け寄ったその人影を見て声を失った。
間違いなく最上さんと社さんがそこにいた。


だけど・・・。

社さんは最上さんを背後から包み込むように抱きしめ、そして最上さんもその体勢で安心した表情を浮かべて眠っていた。

無事を確認してほっと安心すると共に、胸にこみ上げるのは言いようのない・・・・嫉妬。
最上さんを守り抜いた社さんにも、社さんに守られて安心している最上さんにも、ドス黒い感情が胸を覆う。
ふたりを前にして立ち尽くしていた俺はぎりっと奥歯をかみ締め感情を押し殺し、一旦その場を離れ社長に電話を入れた。
どうやら朝から俺の姿がなくなったと、皆に心配をかけているようだった。


『蓮っ!お前、朝早くからどこほっつき歩いてんだ!』

「すいません、社長。ふたりを探してました」

『勝手に動き回るな!』

「でもそのおかげでふたりを見つけました」

『何?!どこだ?!』

俺は場所を告げて電話を切った。
そして再びふたりがいる岩場に戻ると、意識して平静を装って声をかけた。

「社さん、最上さん」

んっ、という声を共にふたりが目を覚ました。

「あれ・・?敦賀さん・・・?」

「あ・・蓮・・・」

一瞬ふたりは状況を把握していないようだった。
先に我に返ったのは最上さんだった。

「あ!私、あのまま寝ちゃって・・・・きゃ~!社さん、ごめんなさい!」

真っ赤になりながら、慌てて社さんの腕の中から抜け出した最上さんは、近くに広げてあったパーカーを羽織った。
その様子に、社さんはくすくす笑っていた。

「そんな慌てなくても。俺は別にあのままでも良かったのに」

「そんな!滅相もございません!!」

そんなやり取りをするふたりに、俺は再び胸の奥がむかむかするのを感じた。
だけどそんな個人的感情は奥に押し留め、いつもの「俺」を演じた。

「とにかくふたりとも無事でよかった」

そう声をかけた俺に最上さんはばっと頭を下げた。

「すいません!私の軽率な行動のせいでご迷惑をおかけしてしまって」

「いや迷惑とは思ってないけど。でも、どうして海に来たのなら俺に声をかけなかったの?」

「それは・・・・」

言いにくそうに口ごもり、最上さんは俺から視線を逸らせた。


俺が何かしただろうか・・・。
再度尋ねようと口を開くのと同時に社さんが割って入ってきた。

「お前に声をかけるより先に、海を見てテンション上がっちゃったんだって。ね?キョーコちゃん」

そう言いながら、社さんは彼女の肩にぽんと手を置いて顔を覗き込んだ。
その行動すら、今の俺は苛立ちを覚えた。
思わず「社さんには聞いてません」と言いそうになるのを堪えていた。
最上さんは社さんの言葉にはっとした様に答えた。

「えっ・・・?あ・・・はい、そうなんです。すいません、子供みたいで」

「それだけ?」

「えっ?」

「本当にそれだけなの?」

最上さんの態度に釈然としないものを感じた。
俺から目線を逸らせた彼女を捕まえるように、じぃっと最上さんを見ていた。
少しためらいながらも、最上さんは小さな声で答えた。

「はい・・・それだけです」

「そう」

思わずため息が出た。
あきらかに何か隠してる。
でも俺には話せない、そういう事なんだろうと思った。
もしかしたら、本当の理由を社さんには話したのかも知れない。
そう考えるといたたまれない思いが胸を過ぎった。
その時、遠くから俺を呼ぶ声が聞こえた。

「おーい、蓮!」

「あ・・・社長。ここです」

岩場に俺たちの姿を確認すると、社長はほっとした表情を見せた。

「無事だったか、社、最上君」

「ご迷惑をおかけしました」

深々と頭を下げた最上さんに社長は手にしていたバスタオルを掛けた。

「どこもケガしてないか?」

「はい、大丈夫です」

社長は大きく頷くと社さんに向かって声をかけた。

「社も無事か?」

「はい、ご心配をおかけしました」

そして社さんの肩にバスタオルを羽織らせようとした社長の目が大きく見開かれた。

「社!お前・・・・」

背中を見て固まっている社長から、社さんははっとした様にタオルを奪い取り素早く肩に羽織った。

そして、そんな社さんに注目している俺と最上さんにいつもの笑顔を浮かべた。

「あぁ、何でもないから。気にしないで。ねぇ?社長?」

「社・・・・」

社長は何か言いたげな表情をしていたが、諦めた様に視線を逸らせた。

「とりあえず別荘に戻ろう。琴南くんも心配していたぞ」

「そうだ!モー子さん!!帰ったらどんなに怒られるかしら・・・・」

社長の一言で最上さんの頭の中はすでに琴南さんの事でいっぱいになったらしい。
社長の後をぶつぶつと言いながら歩き始めた。
そして俺も歩き始めた時、社さんが隣に並びかけた。

「悪く思うなよ、蓮」

前を歩くふたりには聞こえない程度で話しかけてきた。

「いえ・・・社さんが一緒だと思えば少しは安心できましたから」

「嘘つくなよ。俺が一緒だから余計心配だったんだろ?」

「社さんだったら、何が何でも最上さんを守ると思いましたから」

「そうだな。俺の全てで彼女を守った」

そう言った社さんの顔は誇らしげだった。
俺の脳裏には、二人を見つけた時の光景が蘇った。
後ろから抱きしめる社さん。
安心して眠る最上さん。
一晩でふたりの間にはどんな絆が出来たのだろう。
そう考えると、知らず拳を握り締めていた。
そんな考えに捕らわれていた俺は、さっき社長が見せた驚いた表情も社さんの焦った様な行動も忘れていた。


その真実を知ったのは翌日。
仕事に向かう準備をしていると、社長から電話が入った。

『社が動けない。今日は最上くんを代マネにつけるから』

「え?社さん、どうかしたんですか?」

突然知らされた内容に戸惑いの声をあげた。
社長は渋りながらも詳細を話してくれた。

『昨日、俺が見た社の背中には無数の傷があったんだ。おそらく最上くんを守ろうとしてついたんだろう。幸い傷は大した事なかったんだが、すぐに手当て出来なかったせいで破傷風になったらしい。今は高熱を出して寝込んどる』

「そんな・・・・ひどい状態なんですか?」

『まぁ、医者には入院を薦められたが本人が嫌がって自宅療養してる』

「そうなんですか・・・その事最上さんは知ってるんですか?」

『社には口止めされたが、代マネを頼む以上話さざるを得なかったんでな。さっき電話で伝えた。そういう訳で今日は1日頑張ってくれ』

そうして社長からの電話は切れた。

「社さん・・・・」

俺の脳裏に昨日の社さんの姿が蘇った。

『俺の全てで彼女を守った』

その言葉に俺はなにか敗北感を感じていた。
その後、合流した最上さんは例えようもないくらい落ち込んでいた。
撮影現場に向かう車内で、最上さんはどっぷり沈んだ声で呟いた。

「どうしましょう・・・私のせいで社さんが大変な事に・・・」

「なにも最上さんのせいじゃないと思うよ?」

「でも!私が海になんて行かなければ社さんはケガなんてしなくて済んだのに」

「それを言えば、俺が海に誘わなければ最上さんが波に攫われる事なんてなかったんだ」

「そんな事!」

「それに」

俺の言葉に何か言おうとした最上さんを制する様に俺は話を続けた。

「あの時、間違いなく最上さんは俺に会いに来てくれてたんだよね?」

信号待ちの俺は最上さんの顔を覗き込んだ。
誤魔化されないように、逃げられないように。
俺の視線の先で最上さんが落ち着き無く視線を彷徨わせながら答えた。

「それは・・・・まぁ・・・でも・・・」

「だったら、あの時最上さんを助けなきゃいけなかったのは俺なんだ」

そう言って俺はそっと最上さんの頬に腕を伸ばした。
柔らかな頬に触れると、驚いた様に固まって最上さんは俺を見た。
俺もじぃっと視線を合わせて告げた。

「守れなくてごめん」

それだけを伝えるとちょうど信号が変わり、俺は視線を前に戻した。
その後最上さんは何も言わなくなり、現場に着くまでずっと俯いていた。
2度目という事もあってか、最上さんは代マネとしてよく働いてくれた。
ただ俺はその中で違和感を感じていた。
いつもなら、俺の撮影を熱心な目で見てくるはずなのに。
今はなるべく俺を見ないようにしている、そんな感じがした。

(やはり俺がなにかしたのだろうか・・・・)

心になにかひっかかる物を抱えて、その日最後の仕事を終え控え室に戻った時だった。

「お疲れ様。最上さんのおかげで予定より早く終われたね」

「いえ、私は何も。敦賀さんが全て一発でOK出しちゃうからですよ」

ふふっと微笑んでそう答えた最上さんはいつも通りだった。

(俺の思い過ごしだったか)

その笑顔にほっとしてそう思った。
そして荷物を纏めながら何気なく最上さんに言った。

「お腹空いただろ?なにか食べて帰ろう。送るよ」

「あ・・・私、今から行くところがあって・・・」

「今から?」

時刻は夜10時を過ぎていた。

代マネをしている今日、今から仕事ではないだろう。

「事務所に寄るんだったらつきあうけど?」

「いえ・・・社さんのところに行こうかと」

その言葉に、俺の心の中には瞬時に海で感じた嫉妬心と敗北感が蘇った。

「今から・・・は止めた方がいいね」

「え?どうしてですか?」

最上さんはきょとんとした顔で俺を見た。
俺はふっと息を吐いて言い聞かせるように言った。

「こんな時間に女の子が男の一人暮らしの部屋を訪ねるもんじゃないよ」

「でも!社さんは私のせいで寝込んでるんですよ?!」

俺の言う事には耳を貸さず、最上さんは必死で言い募った。
その必死の姿に俺はますます煽られる。

「最上さんのせいじゃないって言っただろ?」

「でも!きっと社さん、困ってます。せめてお食事だけでも!」

「最上さんっ!」


行かないで・・・。


そう心が叫んでいた。
つい、きつい口調になった俺をぐっと見上げて最上さんも声を荒げた。

「敦賀さん、おかしいです!病気の人を放っておくなんて!しかも社さんですよ?!敦賀さんがそんな冷たい人だとは思いませんでした」

最上さんはそう言って自分の荷物を纏めた。

「もういいです。代マネのお仕事はおわりましたよね?では、お疲れ様でした」

そう告げて俺に背を向け、スタスタと出て行こうとした。
また俺の知らないところで社さんと絆を深めるのか?
そう思った時、俺の身体は無意識に動いていた。

「待って、最上さん」

最上さんの腕を掴んで強引に振り向かせた。
そんな俺の事を最上さんは驚いた表情で見上げていた。


行かないで・・・・俺の傍にいて・・・

口には出来ない想いが溢れて、俺は何も言わずただ最上さんを抱きしめた。

「え・・・?」

驚いた様な声をあげて最上さんは固まっていた。
俺は腕の中に納まる彼女をなお強く抱きしめた。
その強さに、最上さんは我に返ったように暴れ始めた。

「いやっ・・・どうしたんですか?!敦賀さん・・・離してください!!」

どんと胸を押し返され、俺は最上さんを解放した。
最上さんは真っ赤になりながら、泣きそうな目で俺を見た。

「なんでこんな事するんですか?!やっぱり敦賀さんおかしいですっ!」

「最上さん!」

そう言い捨て、最上さんはそのまま控え室を出て行った。
俺はその姿を追う事も出来ず、どさっと椅子に座り込んだ。

「なにやってんだよ・・・・」

頭を抱えてそう呟いた。
伝えたい事は伝えられず、ただ感情だけが暴走してしまった。
俺と彼女との間には深い溝が出来てしまった事を痛感していた。









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